全詩集
下村和子さんの多くの詩篇は、人間が自然の一部であり、自然に生かされながら、伝統文化の中にあるエコロジー的な知恵と精神性を再認識させてくれる。今の時代に読まれるに相応しい詩篇だと私は考えている。
(鈴木比佐雄・解説文より)
解説:中野順一、木津川昭夫、福田万里子、中西弘貴、小松弘愛、 佐相憲一、鈴木比佐雄 |
A5判/512頁/上製本 ISBN978-4-86435-057-0 C1092 ¥5000E |
定価:5,250円(税込) |
発売:2012年7月31日
【目次】
Ⅰ 詩集 海の夜 (一九八四年)
Ⅰ 陸へ上がれない
陸へ上がれない
花布巾
百万の色彩
27の出る時計
叫 ぶ
海と黒いコート―芦屋浜シーサイドタウン
海の夜
五体投地
てんのうじ’82
輪 廻
中国産羽毛
黒鳥の旅
河を渡れば―アルビン・エイリー舞踊団賛
「ビブ」
チチ チチチ
分 業
出られない
エレベーターで
Ⅱ 骨 壺
織 る
遠い墓地
からっぽ
暗い場所から
真 言
白い時間
ビラを渡す男
冬 空
日曜日
ふるさとのない女
鳩
ぽっくり寺
平和の工場
捨てる
沈黙する
扇に乗って
お 骨
骨 壺
あとがき
Ⅱ 詩集 鳥になる (一九八七年)
Ⅰ 奄美の機織り歌
藍 染
藍
下染めの色
滋賀の雪
女のいろ
裂の囁き
うずくまる
青摺りの蝶
写 生
開 花
遠い色
白絹の人
貝 紫
真紅の日
暈繝彩色
鳥になる
濡れた手
朝陽の中で
Wuha
奄美の機織り歌
Ⅱ 夜の子守唄
夜の子守唄
水の形
椅 子
魚が二匹泳いでいる
名 前
紅 葉
土遊び
記憶は消える
お 盆
油照り
マネキン人形が海を見た
陽気なお面
川
儀式の後
ハンディなし
私の海
石仏を彫る
五百羅漢
回天曼荼羅
あとがき
Ⅲ 詩集 鄙道 (一九九一年)
万世如意
Ⅰ
お薬師さん
煤 竹
甕覗き
竹の歌
繕いどき
草 鞋
きしむ昔
藁人形
浮かぶ目
古 雛
柘 榴
根仏―祇王・祇女の里
影
青 花
藍の花
藍
針
Ⅱ
見詰める女たち
―フェルナンド・モンテス展にて
雁風呂
白 翔
渦
縄文の森
生 痕
石の風景
道
ネパール―牛と道
消える
風の中で―ネパール・アイキャンプ
ボタフメイロ
へんろみち
近江の観音さま
あとがき
Ⅳ 詩集 耳石 (一九九三年)
Ⅰ
葦のある里
水辺の朝
地球の午後
森は動く
鎮守の森
木の葉
湖岸の冬
田上山の円踊
耳石
ラブコール
夢 州
葵の愛
レクイエム
Ⅱ
自画像
行 程
神 事
水の花
小休止
風と遊ぶ
藍 青
卒業式
終わりの舞
赤い椿
あとがき
Ⅴ 詩集 泳ぐ月 (一九九六年)
Ⅰ
藍の森
初染め人形
海の色
鳥は青に消えた
ファド
淡海の月
流れる
樹を抱く
Ⅱ
蝉
深夜の子守唄
抱 く
赤い時間
闇
鳥よ!
青の時間
紫の時間
Ⅲ
荒城の宮で
閉じない目
目と目
歌
新緑の日に
花明
彫 る
私の糞掃衣
あとがき
Ⅵ 詩集 縄文の森へ (一九九九年)
Ⅰ
生 む
龍
法
遡 行
捨てる
倒木更新
母 性
Ⅱ
三井の鐘音
響き合う
ゆらぐ
当尾の里で
旅
出来事
早春の朝
彩 り
Ⅲ
癈 根
渦
樹
二十五時の深呼吸
寂
讃 歌
枯存木
Ⅳ
瑠璃浄海
月の揺らぎ
あとがき
Ⅶ 詩集 隠国青風 (二〇〇一年)
Ⅰ
私の道
貌
苔
廻
陽
私の熊野
道
醜
杜
念
捨
水
森の沈黙
雨
森
熊野の火―神倉神社・お燈まつり
祭りの後
Ⅱ
鈴
夕 焼
赤
残 像
仏の手
対 話
ひとり旅
森
河
友
月
ひとり旅
赤い贈りもの
Ⅲ
湖水の色
水 縹
女の時間
甘い時間
藍
地球の色
あとがき
Ⅷ 詩集 風の声 (二〇〇四年)
樹の章
仏も、また…
崩 れ
方 向
穏やかな哀しみ
樹のかたち
森に陽が射す時
原風景
木の家
風の章
風の声
蒼い道
風の島―アイルランド
モハー
私のアラン 1
私のアラン 2
私のアラン 3
風の道
水の章
谿 声
青い音
水の言葉
母の湖
鳥 よ
青を探しに
水 満ちる星
孤 舟
あとがき
Ⅸ 詩集 弱さという特性 (二〇〇七年)
Ⅰ
弱さという特性
「こわれもの 注意」
聖 水
蒼い時間
海の見える寺
フラジリティ
子守唄
明るい処
Ⅱ
消えていく
落下するもの
青の中で
私という区間
白馬大雪渓
影
微笑のために
今を歩く
歌
Ⅲ
切れた絃
ふるさと
波
約 束
微 香
青い石
あたらしい王国
地球の水
私のまつり
暮れてゆく
冬の樹
あとがき
Ⅹ 詩集 手妻 (二〇〇八年)
第Ⅰ章 藍のつつしみ
藍のつつしみ
藍の誕生
手に残るもの
秘めたもの
湖北の水
月 光
みどり
藍の意志
私の一色一生
第Ⅱ章 手妻
藍の魔性
手 妻
萬 祝
祭
チュラ アイ
藍のある暮らし
青い白鳥
マリヤさまの藍
第Ⅲ章 甕覗き
甕覗き
青を着て
秘 色
藍が消える日
地獄出し
ピカソの青
女文様
私の色
あとがき
ⅩⅠ 詩集 いろはにほへど… (二〇一一年)
*
鳥 よ
瑠璃浄海
海よ あなたは
野 性
家 族
青山白雲
**
花咲く前の
青を探して
青を着る
夏の色
湯 気
甕覗き
まんまるに
***
いろはにほへど…
花生み
出 発
樹の道
癈 根
****
屋久島再訪
鳥よ(Ⅱ)
ディーバ
見上げる空は
もう一度
あとがき
ⅩⅡ 未収録詩篇
小詩集「旅する冴」より
砂漠へ
火
歌
水
家 族
未収録詩篇
樹になる
日常の出来事
スローリィ アンド ステディリィ
月夜幻想
聴 く
火祭り
朝・地球
つながる
青い時間
小さな誓い
うどん
屑 織
家族のように
近江の土
明るい陽光の下で
朝の歌
御燈の火
根が歌うとき
慟 哭
目
銅 鐸
継承レース
一瞬の色彩
土
聴き耳頭巾
耐える樹
対 話
道の人
水天一碧
水満ちる星
失ったもの
十三夜
季節のない部屋で
月ごよみ
残した習性
樹 心
新しい家族
神さまは善良過ぎた
つなぐ
影
聴乎無声
冬の花
ⅩⅢ エッセイ
エッセイ集『神はお急ぎにならない ―天才たちの楽園を旅する』より(一九九二年)
テージョ川河畔を歩く
近くて遠い国
「ポルトガルの海」
エッセイ集『森を探しに』より(一九九五年)
恐怖の森―自然の持つ二つの顔
湖の森―葦のある里
石の森―石仏を彫る
エッセイ集『遊びへんろ』より(二〇一〇年)
伊那谷の風
私の詩の方向―三師に導かれて
青を求めて―戦後六十年、挫折の連続の中から
未収録エッセイ
藍の神秘
私の詩の方向
幸せの方向
ⅩⅣ 解 説
藍より出でて 中野 順一
森と藍染を愛する詩人の成熟した詩集 木津川 昭夫
『下村和子詩集』について 福田 万里子
〈色〉を象る人 中西 弘貴
青の詩人・森の詩人 下村和子論 小松 弘愛
人の世の共感で地球に立つ詩人 佐相 憲一
藍染の青の精神を生きて後世に語り継ぐ人 鈴木 比佐雄
下村和子 年譜
あとがき
編 註
詩篇
「甕覗き」
病院の白い布団の上に
祖母の染めた藍衣をひろげた
甕覗きのような男で終ってほしい
祖母が父に抱いた願いだった
藍の最晩年の色といわれるこの色は
静かな淡色だ
いくつもの藍甕が並んでいても
最後まで格調を落とさず
この秘色を出す藍は少ない
若くして夫を亡くした女は
夭折する藍も多く見てきた
藍の寿命もさまざまだ
やっと育てた淡藍で祖母は絹布を染め
息子の寸法に着物を縫って遺した
染め終った後の藍は
糸ほどの足跡も見せず
何を漬けても無色になって果てる
とんでいく鳥のように
死ぬ前の父は無言だった
身体中に転移した癌を抱えて
真直ぐに横たわっていた
痛みも訴えず
目だけはいつも窓の方に向けていた
とび続けるものの羽搏きを聞いていたのだろう
死の前の病床で
甕覗き一色の着物は
力の限り藍の青と意志を主張していた